用語解説【関戸本古今集】 | クラウド書展

書道史上の至宝、関戸本古今集の世界へ

書道を嗜む方なら一度は耳にしたことがあるであろう「関戸本古今集（せきどぼんこきんしゅう）」。優美な筆致と洗練された構成は、書道史において特別な輝きを放ち、多くの書家や研究者を魅了し続けています。本記事では、関戸本古今集の魅力に迫り、その歴史的背景や特徴、書道史における意義などを解説いたします。

関戸本古今集とは？

関戸本古今集は、平安時代に制作された『古今和歌集』の写本の一つです。現在確認されているのは、巻第1、巻第2、巻第9の断簡で、それぞれが国宝に指定されています。その名は、かつて伊勢国（現在の三重県）の関戸家に伝来していたことに由来します。その後、いくつかの所有者を経て、現在は東京国立博物館や五島美術館などに所蔵されています。

関戸本古今集の最大の特徴は、その美しい筆致です。全体的に流麗で繊細な仮名文字で書かれており、書風は穏やかで優雅。墨の濃淡や文字の大小、行間の取り方など、細部に至るまで計算された美しさが際立っています。書写者は複数人いると考えられており、その筆跡の違いもまた、鑑賞のポイントの一つとなっています。

歴史的背景と成立

関戸本古今集が制作された平安時代は、日本の文化が独自の発展を遂げた時代です。特に、貴族社会においては和歌が重要な役割を果たし、洗練された美意識が育まれました。古今和歌集は、そのような時代背景の中で編纂された最初の勅撰和歌集であり、当時の人々の美意識や価値観を反映した作品として、非常に重要な存在でした。

関戸本古今集は、古今和歌集の中でも特に優れた写本の一つと考えられています。その制作時期については諸説ありますが、平安時代中期、11世紀頃のものと推定されています。当時の貴族社会において、古今和歌集は教養の証であり、美しい写本は貴重な贈答品としても用いられました。関戸本古今集も、そうした背景の中で制作されたと考えられます。

書風の特徴と魅力

関戸本古今集の書風は、「寸松庵色紙（すんしょうあんしきし）」や「升色紙（ますしきし）」と並び、平安時代の仮名書道の代表的な様式である「古筆（こひつ）」として知られています。古筆の特徴は、その優雅さと繊細さ、そして調和の取れた美しさです。

関戸本古今集の文字は、筆の運びが非常に滑らかで、文字と文字が自然につながっているように見えます。墨の濃淡を巧みに使い分け、文字に奥行きと立体感を与えています。また、文字の大きさや形を微妙に変えることで、単調さを避け、変化に富んだ美しいリズムを生み出しています。

さらに、関戸本古今集の魅力は、その料紙にもあります。当時、高貴な人々は、様々な色や模様が施された美しい料紙を用いて書写を行いました。関戸本古今集の料紙も、様々な色で染められた紙を継ぎ合わせて使用しており、その色彩の美しさも、作品全体の魅力を高めています。

書道史における意義

関戸本古今集は、書道史において非常に重要な作品として位置づけられています。その理由は、以下の点が挙げられます。

• 平安時代の仮名書道の最高峰の一つであること： 関戸本古今集は、平安時代の優雅な書風を代表する作品であり、その美しさは後世の書家に大きな影響を与えました。
• 古今和歌集の伝承に貢献したこと： 古今和歌集は、日本の文化を代表する古典であり、関戸本古今集は、その貴重な写本として、古今和歌集の伝承に大きく貢献しました。
• 後世の書家に多大な影響を与えたこと： 関戸本古今集は、後世の書家にとって、手本とすべき作品であり、多くの書家がその書風を学び、模写しました。その影響は、現代の書道界にも及んでいます。

鑑賞のポイント

関戸本古今集を鑑賞する際には、以下の点に注目してみると、より深くその魅力を味わうことができます。

• 筆致の美しさ： 筆の運びや墨の濃淡、文字の大小、行間の取り方など、細部に至るまで、その美しい筆致を堪能してください。
• 料紙の美しさ： 様々な色で染められた料紙の美しさ、そしてその組み合わせの妙にも注目してください。
• 和歌の内容： 書かれている和歌の内容を理解することで、作品の背景にある文化や感情をより深く理解することができます。
• 書写者の個性： 複数の書写者がいると考えられていますので、それぞれの筆跡の違いにも注目してみてください。

おわりに

関戸本古今集は、書道史における至宝であり、日本の文化を代表する作品の一つです。その優美な筆致と洗練された構成は、見る人の心を魅了し、深い感動を与えてくれます。ぜひ、実物や複製を通して、関戸本古今集の世界に触れてみてください。きっと、新たな発見や感動があるはずです。そして、書道の世界がさらに広がることを願っています。